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Over40おじさんデザイナーの備忘録なブログ

映画『アルプススタンドのはしの方』【ネタバレ感想】傑作青春映画爆誕!諦めたらそこで試合終了ですよ…。

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西入間警察署の近くに住んでいたことがあるので、架空の高校とはいえ東入間高校の生徒が主人公ってことで勝手に親近感が湧いたという僕のどうでもいい感情は置いといて、とにかくすげぇ面白かったです。

 

甲子園球場のアルプススタンドのはしっこで「しょうがない」と諦めて自分の本当の気持ちに蓋をしていた高校生たちが「しょうがないよ。でも…」と一歩踏み出すという青春映画なんですけど、これがもう傑作でしてね。コメディかと思って油断していたら最後に泣かされるという、舐めていましたごめんなさいという作品。

 

90点。

 

では、いってみましょう。

 

 

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作品情報

公開日:2020年7月24日

監督:城定秀夫

原作:籔博晶、兵庫県立東播磨高校演劇部

脚本:奥村徹也

制作国:日本

上映時間:75分

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

 

 

キャスト

小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川瑠華、目次立樹

 

 

あらすじ

夏の甲子園1回戦に出場している母校の応援のため、演劇部員の安田と田宮は野球のルールも知らずにスタンドにやって来た。そこに遅れて、元野球部員の藤野がやって来る。訳あって互いに妙に気を遣う安田と田宮。応援スタンドには帰宅部の宮下の姿もあった。成績優秀な宮下は吹奏楽部部長の久住に成績で学年1位の座を明け渡してしまったばかりだった。それぞれが思いを抱えながら、試合は1点を争う展開へと突入していく。

(出典元:映画.com)

 

 

映画『アルプススタンドのはしの方』ネタバレ感想

しょうがない

 

生きていれば「しょうがない」ことって山ほどあるんですよね。っていうか「しょうがない」ことだらけ。僕だって40数年間生きてりゃ山ほどありますよ、しょうがなく諦めたこと。だから安田さん(小野莉奈)や藤野くん(平井亜門)が「しょうがない」って諦めちゃう気持ちは痛いほどわかる。だってしょうがないんだもの。頑張ったってしょうがないんだもの。終わったことはしょうがないんだもの。

 

とは言え、自分の気持ちに蓋をしてまで「しょうがない」で納得させちゃうのはちょっともったいないよなぁなんて、安田さんや藤野くんを見て思うわけですよ。心の底からしょうがないって思えて、割り切って先に進めるのなら全然OKだと思うんです。切り替えってとても大事だし。

 

でも、安田さんや藤野くんが発する言葉の端々から、ちょっとした表情から察するに、「しょうがない」で本心に蓋をして割り切ろうとする高校生特有のうそぶく感じといいますか、無理矢理自分を納得させてるように見て取れるんですよね。まぁ、その気持ちはわかるんだけど、共感しつつも説教したくなっちゃうというか(笑)。青春なんてとうの昔に過ぎ去った僕みたいなおじさんは特に。諦めてええんか?もう一踏ん張りしてみたらどや?もう少し行けるんとちゃうか?ってついつい言いたくなっちゃう。君たちの諦めちゃう気持ちはわかるよ、でも諦めずに頑張った先に見える素晴らしい景色もあるんだぜ、って言いたくなっちゃう。

 

だからもうね、試合が進むにつれて安田さんたちの本心が徐々に顔を出してきて、9回に一気に爆発する展開がとても鮮やかでめちゃくちゃ気持ちいいんです。これこれ、これだよー!青春ってこれじゃーん!って。そして最後に僕が泣くという。

 

 

 

キーパーソン矢野くん

 

とにかく矢野くんの存在ですよ。矢野くんって本編には名前だけしか出てこないという稀有なキャラクターなんだけど、彼がキーパーソンで「しょうがなくない」代表なんですよね。諦めない代表。

 

下手くそで変なスイングで(どこが変なのかわからなかったけど)絶対に試合に出られないと思われていた矢野くん。そんな矢野くんが代打でコールされた時はもうね、鳥肌もの。諦めたらそこで試合終了ですよ by 安西先生 from スラムダンク の教えを体現してくれるんですよ、矢野くんが。諦めずに頑張り続けると、報われることってあるんですよね。

 

矢野くんのコールを聞いて驚いた藤野くんの嬉しいような悔しいような微妙な表情は良かったなぁ。藤野くんから漂いはじめる心境の変化のグラデーション感がすごくリアルでね。無駄だと思っていた矢野くんの努力が報われた瞬間を目の当たりにしたわけですからね。そりゃあ心中穏やかじゃないですよ。

 

この矢野くんのまさかの出場によって風向きが変わってくるんです。頑張っても「しょうがない」という諦めムードの青春コメディから、しょうがなくないんじゃね?的な青春ドラマに徐々にシフトしはじめるんです。

 

 

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ウザい厚木先生
 

安田さんや藤野くんの他にも、田宮さん(西本まりん)や宮下さん(中村守里)や久住さん(黒木ひかり)とか、とても魅力的なキャラクターが出てくるんだけど、僕がいちばん好きだったのは厚木先生(目次立樹)。安田さんたち同様、はじめは僕もウザく感じましたよ。応援を強要するし何よりうるさい(笑)。

 

大声を出して応援したってプレーするのは選手だし意味ないよね、声出して応援したってしょうがないよねっていう安田さんたちの気持ちもわからないではない。でもそんなことは厚木先生だって百も承知なんですよね。「しょうがない」ことの経験値なら大人の方が上ですからね。

 

でも、万が一にも力になる可能性があるのなら声を出して応援してみようぜ、やってみないとわかんねぇじゃん、すぐに諦めんなよみたいな厚木先生からの安田さんたちへのエールにも思えて。厚木先生は安田さんや藤野くんたちの挫折を知っていてあえて言っていた可能性もあるのかなぁなんて思ったり思わなかったり。実際にいたらウザいとは思うけど、泥臭くて生徒思いの厚木先生は良かったなぁ。

 

 

 

泣けるエピローグ

 

秀逸だったのはエピローグですよ。甲子園だけでは終わらずに、社会人になった安田さん、藤野くん、田宮さん、宮下さんら4人の後日譚が描かれるんです。高校卒業から4年間、みんな自分の気持ちをしっかり持って、諦めずに頑張ってきたんだなぁって、説得力のある素敵なラストなんですよ。(特に元野球部員だった藤野くんのその後は良かった!)

 

そして、本作の象徴だった矢野くんがエピローグでも僕を泣かせてくれるという。僕自身がサッカーをやっていたこともあって、スポーツものに弱いということもあるんだけど、甲子園後も諦めずに努力を続けていたという矢野くんの過程を思うと泣けてきてね。「しょうがない」と諦めずに、いや諦めかけたことがあったかもしれないけど、ここまで到達したか、と。最後まで登場しない矢野くんにここまで感動させられるとは(笑)。

 

このエピローグによって、余韻ができるといいますか、物語に奥行きができるんですよね。安田さんたちはきっとこれからも諦めずに努力して、頑張って、いろんな経験をして素敵な大人になるんだろうなぁなんて思えて。みんなの明るい未来を想像させるような、非常に清々しい気分にさせてくれる良いエピローグでした。(個人的には久住さんとブラバンの2人のその後も知りたかった。)

 

 

 

自分の気持ちに正直に生きる

 

「しょうがない」って諦めてるけど、本当の自分の気持ちはどうなの?それでいいの?もうちょっと頑張ってみない?って、僕たち観客にエールを送っているような作品なんですよね。

 

「しょうがない」って思うのはしょうがない。でもその上で僕たちはどうするのか。「しょうがない」で気持ちに蓋をしないで、自分の気持ちに正直に生きることの大切さを教えてくれました。僕みたいなおじさんにも響いたくらいだから、若い人たちにはもっと響くんじゃないかな。ホント傑作なので、ぜひとも観て欲しいなぁ。

 

同日にクリストファー・ノーラン監督の話題作『テネット』も観たんですけど、比べる対象として良いのか悪いのかは置いといて、個人的には本作『アルプススタンドのはしの方』の方が面白かったし満足度は高かったです。(『テネット』が難し過ぎて理解不能だった、ということもありますけどね…と、一応フォローも入れときます。)

 

 

 

タイムリーと言っては失礼なのかもしれないけど、コロナ禍で今年の春夏の甲子園大会は中止になりましたよね。球児たちが泣いている姿をテレビで見ましたよ。これもまさに「しょうがない」わけで。誰も悪くない。でも、その上でこれからどう生きるのか。野球を続けるのか、野球以外のことを始めるのか、自分の気持ちに蓋をしないで正直に生きて欲しいなって、頑張って欲しいなって、大人のひとりとしてエールを送りたいですね。

 

おしまい。