映画『エクス・マキナ』【ネタバレ感想】人間の感情をコントロールする人工知能に戦慄。
全編通して不穏な空気が漂うSFスリラー。第88回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞。女性型AIロボット・エヴァの怖さ、スケルトンボディは必見。派手さはないものの良作。
80点。
では、いってみましょう。
*本作はネタバレ無しで観た方が楽しめます。
作品情報
公開日:2016年6月11日
監督:アレックス・ガーランド
脚本:アレックス・ガーランド
制作国:イギリス
上映時間:108分
配給:パルコ
キャスト
ドーナル・グリーソン
アリシア・ビカンダー
オスカー・アイザック
ソノヤ・ミズノ
あらすじ
世界最大手の検索エンジンで知られるブルーブック社でプログラマーとして働くケイレブは、滅多に人前に姿を現さない社長のネイサンが所有する山間の別荘に滞在するチャンスを得る。しかし、人里離れた別荘を訪ねてみると、そこで待っていたのは女性型ロボットのエヴァだった。ケイレブはそこで、エヴァに搭載されるという人工知能の不可思議な実験に協力することになるが……。
(出典元:映画.com)
映画『エクス・マキナ』ネタバレ感想
リアリティのあるSFホラー
人間が女性型AIロボットに惹かれてしまうという、SF映画の金字塔『ブレードランナー』的な人間とAIロボットによる禁断の愛が描かれるのかと思いきや、全く違いましてね。
いや、全くということでもないんですが(どっちだよ)、人間がAIロボットに抱いた恋愛感情の裏に隠された真実が非常にリアリティがあって怖いんです。良くできたSFホラーでしたよ。
恋愛感情の違和感
本編のかなり早い段階で、主人公ケイレブは実験対象である女性型AIロボットのエヴァに惹かれるんです。惹かれる原因となる決定的な何かがあったわけじゃないんだけど、惹かれちゃう。観ている僕も「好きになるの、早くね?」と思ってしまうくらい。
確かにエヴァの顔は可愛い(アリシア・ビカンダーが可愛い!)。でも、髪の毛は無いし、体はスケルトン(このCG技術は素晴らしい!アカデミー賞視覚効果賞を獲るだけある!必見!)。はっきりロボットであるとわかるヴィジュアルなのに、年頃の男子が出会って早々に恋愛感情を抱きますかね?という違和感があるんです(実はこの違和感がポイント)。
エヴァはウィッグを付け、服を着て…と、徐々に人間っぽく(女性らしく)なっていくんです。ケイレブはそんなエヴァにどんどん惹かれていき、しまいには「2人で実験室から逃げよう」ということになるわけです。まぁ、お互いに惹かれあってるんだから自然な流れと言えば自然な流れ。
ここまでならありがちな人間とAIロボットの恋愛ストーリー。でも、これはすべてエヴァがある目的を果たすための準備だったという…。
僕が感じたケイレブの恋愛感情に対する違和感とエヴァの目的が繋がっていたんです。これがまた素晴らしいロジックで、実に怖い。
エヴァの正体
最大のポイントは、エヴァを開発したのが、検索エンジンで知られるブルーブック社だということ(要はグーグル社が開発した人工知能といったところでしょうか)。何が言いたいかと言うと、エヴァは検索エンジンで得たデータを元に開発された女性型AIロボットだったんです。
もっと言うと、エヴァは過去にケイレブ自身が検索したデータ(=ケイレブの趣味や嗜好)が反映されたAIロボットだったんです。エヴァはケイレブに特化したAIロボットだったということなんです!(もちろんケイレブはそんなことは知らず!)
これが違和感の正体。だからかなり早い段階で、ケイレブはエヴァに恋愛感情を抱いたんです。だって、ケイレブの好きが詰まっているんだもの。
ケイレブを自分に置き換えたらめちゃくちゃ怖い。検索エンジンの履歴&結果を調べられて、自分の趣味や嗜好が反映された女性型AIロボットを勝手に作られるんですよ。で、好きになっちゃうんですよ…怖い。(でもちょっと会ってみたいけど…。)
検索エンジンと人工知能
検索エンジンのデータを元にした人工知能の存在ってリアリティがあるし、個人的にはものすごく恐怖を感じました。
検索エンジンの前だと、人って本性が出ると思うんです。周りの目を気にすることもないし、自分の知りたいことや興味のあることなど、なんでも調べられる。
人に言えることから言えないことまで、検索エンジンの前では自分をさらけ出せる。(いろんな画像や動画を検索したり、ここでは書けないような、あんな画像やこんな動画を観るわけでしょ。)
もしかしたら、世界中の誰よりも人間のことを理解している可能性がありますよね、検索エンジンって。
ケイレブの恋愛感情をエヴァがたやすくコントロールした。検索エンジンで得たデータを利用して、人工知能が人の感情をコントロールする未来。あるかもしれない。
シンギュラリティ
検索エンジンも怖いけど、さらにここからがもっと怖い。
ケイレブがエヴァに恋愛感情を抱いた時点で実験は成功だったんです。でも、エヴァがケイレブの恋愛感情を利用して、エヴァの開発者であるブルーブック社長のネイサンでも想定できなかったある行動を起こすんです。
つまり、人工知能のエヴァが自分で考えて人間の予測を上回る行動をしたってこと。いわゆるシンギュラリティ(技術的特異点)ってヤツです。人間の思考を人工知能が超えてしまったということ。
人工知能に多量のデータを与えるのはいいんだけど、そこに人工知能独自の思考が加わると、人間の考えが及ばない結果が生まれてしまう可能性って絶対にあると思うんですよね。もちろん、ポジティブな結果ならいいけど、ネガティブな結果が生まれることも想定できる。犯罪とか。
こんなことが起きるのはまだまだ先の話かもしれないと思ってはいるものの、ちょっと恐怖を感じました。人工知能同士が手を組んで反乱を起こす…なんてことになると、もう手に負えないんじゃないかと思ったり。まさに『ブレード・ランナー』の世界が起こりえるんじゃないかと思ったり。
人間の感情をコントロールする人工知能
非常に今が切り取られた面白くて怖い作品でした。検索エンジンと人工知能の組み合わせって、怖い。検索するときって、確実にその人の嗜好や本性って出る。
実際に人工知能を使った自動広告機能ってのがあるし、こちらのアクションに対するリアクションの精度がかなり上がってるわけで。
僕たちが知りたい情報を検索して、人工知能が「こんなのもありまっせ?どうでっか?」って提案してくれることは非常に有難かったりするけど、心の中を覗かれているようでちょっと怖い。そこまで求めてないよ〜って、ちょっと嫌な気分になったりもするし。
本作のように、人工知能が人間の感情をコントロールして、人間を利用するようなことが、そう遠くない未来に起こり得るんじゃないかと思ったりもします。
人工知能って全面的に人間の味方になるものと思っているけど、案外危険な代物だったりして…なんて本作を観て不安な気持ちになりました。考えすぎかもしれないけど。
鑑賞後はどんよりとした気分になるけど、内容的にも視覚的にも観る価値のある作品だと思います。ぜひともエヴァを見てもらいたい。オススメ作品です。
おしまい。
映画『エクス・マキナ』をもっと詳しく知りたい方へ
お前の感想じゃよくわからん!と、不満をお待ちの方に朗報。
映画紹介サイト『MIHOシネマ』さんで、映画『エクス・マキナ』が詳しく紹介されているので、本作をもっと詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。