映画『新聞記者』【ネタバレ感想】シム・ウンギョンと松坂桃李のW主演!リアルすぎるフィクション映画!
映画『新聞記者』を観てきました!
官僚って怖えぇ〜。
権力って怖えぇ〜。
って素直にそう感じさせる映画でした。
本作はフィクションってことなんだけど、本当にフィクションなの?って疑ってしまうほどリアリティに溢れていて。
主演の2人、シム・ウンギョンさんと松坂桃李さんの演技も素晴らしくて、とっても見ごたえのある映画でしたよ。
では、いってみましょう。
作品情報
公開日:2019年6月28日
監督:藤井道人
原案:望月衣塑子
河村光庸
脚本:詩森ろば
高石明彦
藤井道人
音楽:岩代太郎
撮影:今村圭佑
主題歌:OAU「Where have you gone」
配給:スターサンズ
イオンエンターテイメント
上映時間:113分
キャスト
シム・ウンギョン:吉岡エリカ
松坂桃李:杉原拓海
本田翼:杉原奈津美
岡山天音:倉持大輔
郭智博:関戸保
長田成哉:河合真人
宮野陽名:神崎千佳
高橋努:都築亮一
西田尚美:神崎伸子
高橋和也:神崎俊尚
北村有起哉:陣野和正
田中哲司:多田智也
望月衣塑子
前川喜平
マーティン・ファクラー
予告
あらすじ
東都新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届いた。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。
一方、内閣情報調査室官僚・杉原(松坂桃李)は葛藤していた。
「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。愛する妻の出産が迫ったある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。
真実に迫ろうともがく若き新聞記者。「闇」の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。
二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる!
(出典元:映画『新聞記者』公式サイト)
映画『新聞記者』ネタバレ感想
重苦しくて緊張感のある映画
いやぁ、とっても面白かったですよ、映画『新聞記者』。
ある新聞社に送られてきた「医療系大学の新設」に関する極秘文書の謎や官僚・神崎の死の真相に迫るサスペンスフルな展開。真相の追求のために忖度のない行動力をみせる心優しき新聞記者の吉岡。国家権力側の人間としての苦悩や弱さを見せるエリート官僚の杉原。そして驚愕の真実に衝撃のラスト。見どころ満載で、最初から最後まで気が抜けない展開で面白かったです。
でね、本編はずーっと重苦しくて緊張感があるんです。極秘文書のリークや官僚の死、そして国家権力の闇、裏切り…重苦しくなる要素満載。唯一心が休まるのは、杉原の奥さん役の本田翼さん(めっちゃ可愛いんですよ!ホントに!ホントに!)が出てくるシーンだけ。本作のオアシスです。それ以外は正直しんどい(良い意味で)。
この重苦しくて緊張感のある映画『新聞記者』の世界観を助長させているのが、杉原の出向先の内閣情報調査室(内調)なんです。内調の描かれ方がエグい!フィクションだからといってこんな風に悪く描いていいの?って感じで。
内閣情報調査室(通称:内調)
本作は女性ジャーナリストの性被害事件やモリカケ問題を連想させる事件が描かれているんですね。特に女性ジャーナリストの性被害事件なんて、フィクションと言いつつも実際の事件そのままでしょって感じで描かれていて。
で、その事件の情報を裏で操作しているのが、内閣情報調査室(内調)なんです。
現政権を維持させるためには改ざん、隠蔽、捏造、マスコミへのリークなどなど…どんな嘘だって平気でついちゃうぞ!どんな事だってもみ消しちゃうぞ!っていう組織に描かれているんですね。
政治家だろうと民間人だろうと容赦なく、有る事無い事をでっち上げて、内調が勝手にその人の人生を作り上げてコントロールしちゃうんです。怖えぇ〜。
極端な話、僕もあなたも犯罪者に仕立て上げられる可能性があるってこと。怖えぇ〜。
日本の中枢がいくらなんでもここまではやらないよなぁ…なんて疑問に思う自分もいるけど、現実として過去に国側が改ざんや隠蔽などをしてきたという歴史を考えると、あり得ないことでもないよなぁ…なんて納得しちゃう自分もいたりしてね。
フィクションとはいえ、内調の描き方は結構ギリギリの線を突いてきてるような気がしました。(監督さんたちは変な圧力をかけられなかったのかな?って観てるこっちが心配になっちゃいましたよ)
でね、本作に朝まで生テレビでお馴染みのジャーナリスト・田原総一朗さんがこんなコメントを寄せているんです。
面白い!!よくぞ作った!
非常にドラマチックかつサスペンスフル!
新聞記者と上層部の関係、官僚機関の構造がよくわかった。
権力側に絶対に忖度しなさそうな田原総一朗さんがこんなこと書くんですよ。本作の内容に信憑性が出てきますよねー。
この映画は…フィクションという名を借りたノンフィクションなのかもしれないっすね。
そんな中で、唯一明らかにフィクションっぽいのは内閣情報調査室のフロア。 薄暗いフロアでみな黙々とカタカタとパソコンのキーボードを打っている異様な空間。さすがにこれはないだろうって。いかにも怪しすぎてちょっと笑っちゃいました。
でも、この内調の異様な(わざとらしい)空間を描くことで、フィクションっぽさを感じられたのは確かです。本作のリアルな感じとフィクションの感じのバランスは素晴らしかったです。
フィクションの中にリアルを巧妙に組み込んで、何となくうやむやにさせた感じのある本作。作り方が秀逸でしたねー。
僕は恥ずかしながら内閣情報調査室に関しての知識が無いのでホームページで調べちゃいました。
<内閣情報調査室>
内閣情報調査室は、内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析その他の調査に関する事務並びに特定秘密の保護に関する事務を担当しており、内閣情報官のもとで、次長及び総務部門、国内部門、国際部門、経済部門、内閣情報集約センター並びに内閣衛星情報センターで分担し、処理しています。
(出典元:内閣官房公式HP)
こういう立派な部署らしいですよ。本当は。
情報操作だなんて、とんでもない。
魅力的な新聞記者・吉岡
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ったという、なかなか複雑な環境で育った本作の主人公のひとり、新聞記者の吉岡エリカ。
吉岡の父も新聞記者だったんだけど、政府が絡んだ事件で誤報を出してしまって、自殺に追いやられたんです。
なかなか難しい人生を送ってきた(と思われる)吉岡なんだけど、とっても素敵な女性なんですよ。
新聞記者としての正義をしっかりと持ち、忖度のない行動力もあり(上司からしたらちょっとめんどくさい部下って感じだけど)、人に対しての優しさもあるんですね。自分というものをしっかりと持っていて、とってもとっても魅力的な女性なんです。
官僚である神崎の死によって世間の晒し者になってしまった遺族に、過去の自分を重ね合わせてしまい、吉岡が他の記者たちの質問攻めに割って入って遺族を守ろうとするシーンがあるんですね。自分自身も記者なのに。吉岡と杉原が出会う大事なシーンなんだけど、吉岡の人間性が出ていてとっても良いシーンでした。(身内が死んで悲しんでいる時に質問なんてするんじゃないよって思いますよね。実際いるよね、そういう記者とかレポーターとかさ。わきまえろよってホントに思う…。)
そんな吉岡を演じたシム・ウンギョンさん。めっちゃ良かったですよー!日本語も上手で。はじめはちょっと地味で冴えない新聞記者に見えたんですけど、物語が進むにつれて目付きも鋭くなってきて生き生きとしてきて美しくなっていくんです。ちょっと今後の活躍には注目っすね。
エリート官僚・杉原の苦悩
吉岡は人として魅力的なんだけど、杉原は人としてというより、共感できる部分が多くて魅力的なんです。あぁ、なんかわかるわ、みたいな。自分と重ね合わせやすいキャラクターなんですよね。
杉原はおそらく普通の感覚を持った人間だと思うんですよね。内調での胡散臭い任務に不満や疑問を持っているけど、上司である内閣参事官の多田(こいつの静かなる圧が怖い!)には逆らえないし、出産を控えた愛する奥さんはいるし(繰り返すけど本田翼さんがホントに可愛い!)、指示された仕事はやるしかないって感じで。悶々とした日々を過ごしてるんです、わかる。
そして、杉原は新聞記者の吉岡と共に、様々な圧力を受けながらも神崎の死の理由を探っていると、国は医療目的ではなくて、実は生物兵器の研究という軍事目的として医療系大学の新設を企てていたという国家レベルの闇に辿り着くんですね。衝撃の真実ですよ。大スクープですよ。この件を公表したら政権は揺らぐでしょうね。
…でもね、杉原は最後に吉岡を裏切るんです。
この衝撃の真実を公表した後に吉岡を裏切っちゃうの、杉原は。
「いずれ外務省に戻してやるから、この件にはもう関わるな。」って内閣参事官の多田が杉原に圧力をかけてきてね。杉原は屈しちゃうんです…(マジか!って感じ)。
勝手に神崎の死の理由を探って、真実に辿り着いて、その真実を公表した矢先、知らん顔するっていう。結果的に吉岡に誤報を出させて陥れる形になっちゃうっていう。内調とやってること一緒じゃん!っていう。
はっきり言って杉原の裏切り行為はムカつきますよ。ムカつくけど、自分や愛する可愛い奥さんと赤ちゃんの将来を考えると、裏切っちゃう気持ちもわからないではないかなって思うんですよね。何かに熱中している時は前しか見えなくて、冷静になって俯瞰してみるとあれ?これでいいのかな?って不安に駆られることってありません?(って誰に聞いてる?)
最後の最後に保身に走ってしまって、ちょっと残念なキャラクターの杉原(僕的には人間らしくて魅力的だったけど)を演じる松坂桃李さんがね…これまた抜群でしたよ。
松坂桃李さんって爽やかでクリーンなイメージがあるから、杉原はどんな圧力にも屈しないヒーローのような存在になるのかなって勝手に思っていてね。僕は松坂桃李=正義のイメージを持っているので、なおさら最後に吉岡を裏切ったときの衝撃度は半端なかったです。吉岡も衝撃だったと思うけど、観客の皆さんも衝撃だったんじゃないかな。苦悩する松坂桃李、裏切る松坂桃李。なかなか新鮮で良かったですよ。
最終決戦が…ない
映画でもドラマでもラスボスとの最終決戦があって、正義が勝って大団円っていうのが王道だと思うんだけど(本作は大団円にはならないけど)、本作では結局のところ、ラスボスが誰なのかハッキリしないんです。
軍事目的で医療系大学を新設しようとしていたことを公表することによって、ダメージを受けるのは現政権なんだろうけど、その「現政権」は本作にいっさい出てこないんです。いまいち対立関係がぼんやりとしていてわからないんです。
結末から考えて、ラスボスである「現政権」を出す必要が無かったからあえてぼんやりとさせたのかもしれないけど、クライマックスでの盛り上がりに欠けた感じはしましたね。(でもその物足りなさが逆にリアルな雰囲気を醸し出していたっていう見方もあるけど…。)
まとめ
杉原の裏切りで幕を閉じる本作。
ん?
確かに神崎の死の真相を追いかけるサスペンスフルな展開は観ていて面白かったし、内調の胡散臭さもリアリティがあって面白かったし、物語を盛り上げようとする変な演出も無かったし、吉岡と杉原を演じたシム・ウンギョンさんと松坂桃李さんも良かったし、僕は結構楽しめました。
でも、結局何が言いたいのかがわからなかった…。僕ら観客に委ねるパターンですね。
結末を素直に受け取ると、新聞社や新聞記者が命をかけて真実を報道しても、官僚たちがもみ消しちゃうから世の中は何も変わらないよっていう、この国の闇やこの国に対しての諦めムードを伝えたかったのかな。
それとも、今のこの国の情報を鵜呑みにするなよ、もっと自分の頭で考えろよっていう、僕ら国民の情報リテラシーの低さに警鐘を鳴らしているのかな。
まぁ、いずれにせよ、せっかくここまで国家権力側の事を痛烈に描いたんだから、最後は希望を持たせる終わり方にして欲しかったなと僕は思うんですよね。
数年後、杉原の裏切りにめげずに新聞記者としてバリバリやってる吉岡の姿を描いて欲しかったな。東都新聞社のエースとしてバリバリやってる姿を見たかったな。
この終わり方だったら誤報を出した吉岡は(本当は誤報じゃないんだけど)お父さんと同じ道を辿りそうな気もするし、杉原もいずれ神崎と同じ道を辿りそうな気がするし、ちょっと悲しい未来を想像してしまいます…。
僕はこの映画をオススメしたいけど、希望のない終わり方だけは少し残念だったな。でも、世の中に垂れ流されている情報の危うさや官僚機関の構造や役割について考えるきっかけになる映画だと思います。機会があったら観て欲しいな。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!
ではまた。