映画『メランコリック』【ネタバレ感想】第2のカメ止めか?殺し屋御用達銭湯「松の湯」が舞台のサスペンスコメディー!
映画『メランコリック』を観てきました!
第2のカメ止めなんて言われている本作。
低予算で面白い映画っていう意味では第2のカメ止めなんだけど、設定や展開は『メランコリック』の方が上のような気がしたりしなかったり…(どっちなんだ?)。
では、いってみましょう。
作品情報
公開日:2019年8月3日
監督:田中征爾
脚本:田中征爾
プロデューサー:皆川暢二
撮影:高橋亮
TAディレクター:磯崎義知
配給:アップリンク
神宮前プロデュース
One Goose
上映時間:114分
キャスト
皆川暢二:鍋岡和彦
磯崎義知:松本晃
吉田芽吹:副島百合
羽田真:東
矢田政伸:田中
浜谷康幸:小寺
ステファニー・アリエン:アンジェラ
大久保裕太:田村
山下ケイジ:鍋岡修一
新海ひろ子:鍋岡恵子
蓮池貴範:関根
予告
あらすじ
名門大学を卒業後、アルバイトを転々とし、うだつの上がらない生活を送っていた和彦。ある日、偶然訪れた銭湯で高校時代の同級生・百合と再会した彼は、そこで一緒に働かせてもらうことに。やがて和彦は、その銭湯が閉店後の深夜に浴場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。さらに、同僚の松本が殺し屋であることが明らかになり……。
(出典元:映画.com)
映画『メランコリック』ネタバレ感想
殺し屋御用達銭湯
東大を卒業したのに実家でニート状態の鍋岡っていう男が主人公。その鍋岡が近所の銭湯『松の湯』でバイトすることになったんだけど、実はその松の湯、営業終了後は殺し屋がターゲットを処分する場所として利用されていたんです。殺し屋御用達銭湯だったんです。もちろん鍋岡はそんな裏事情を知らずにバイトに入っちゃって…さあ、どうなる?っていう物語。
設定だけで興味が湧く湧くワクワク。殺し屋がターゲットを処分…ってオブラートに包んだ書き方をしたけど、要は死体処理場として銭湯を利用するんです。なんて理にかなっているんだと。
浴室内で殺せば、目撃者を気にすることもないし、血がドバッと出ても簡単に洗い流せるし、返り血を浴びても洗い流せるし、死体はボイラーで焼けるし…と、証拠が残らないので人を殺すにはうってつけの場所なんですね、銭湯って(って結構エグいこと書いてるな…)。
東大出身ニート・鍋岡
そんな訳あり銭湯とは知らずに、バイトとして働くことになったのが東大出身ニート鍋岡。この鍋岡がね、いいんですよ。大きめの眼鏡を掛けて、ヘアースタイルは横分けで、話し方もオドオドしていて、ニート状態なのに東大出身のためかプライドが高いという、いかにもっていうキャラクターで。
ある時鍋岡は、閉店後の銭湯内で行われている殺しの場面を見てしまって、死体処理を手伝わされる羽目になり、裏社会に片足を突っ込んじゃうことに。
ちなみに殺し屋の正体は松の湯で一緒に働いている小寺っていう先輩従業員で、松の湯のオーナーの東(あずま)がヤクザと殺し屋の仲介役だったという。もうガッツリ闇銭湯。
でもなぜか鍋岡はその死体処理の仕事にやりがいを感じちゃうんですね。死体処理をすると特別手当が出るんです。やってることはヤクザなのにその辺はしっかりしてるという。
おそらく、鍋岡は自分がやったことに対価が支払われることが(例えそれが犯罪であっても)存在を認められた感じがして、嬉しかったんだと思うんです。東大を出てもニートになってしまった表の世界では、誰にも認められずに憂鬱な日々を送っていたんでしょうね。だから死体処理というエグい仕事(犯罪だけど)とはいえ、自分を認めてくれた裏の社会が輝いて見えたのかなと。何であれ、人間認められると嬉しいですからねー。
日常ではうまくいかなかった鍋岡が、非日常の世界ではフィットして、なんだか生き生きしてくるんです。可愛い彼女も出来ちゃったりしてね。そして最後には思い切った行動を起こす事に…。頼りなさげではあるものの、自信を得て、徐々に男らしくなっていく鍋岡を演じた皆川暢二さんの演技があまりにも自然でとっても良かったです。(そして実はイケメンなのです。)
チャラいバイト仲間・松本
鍋岡と同日にバイトの面接をして採用されたバイト仲間の松本。
もうね、彼は金髪でいかにもって感じで軽くてチャラくて、絶対にコイツ銭湯内で事件に巻き込まれて死ぬなって思っていたんだけど、見事に裏切られるという。僕的には松本がいちばんのサプライズでした。
鍋岡は死体処理の仕事をして、今までの俺とは一味違うぜ的な自慢げな雰囲気を醸し出していたんだけど、松本とオーナーの東が2人でコソコソと話をしてるのを見ちゃって気になるんですね。で、2人に何を話していたのか探りを入れちゃったりしてね。
気持ちはわかる。同期のバイトって変なライバル意識があって、相手の時給が気になっちゃうし、自分より周りの人と仲良くしてると気になっちゃうし。嫉妬心が芽生えるんです。その辺の描写もうまい。
とはいえ、同期を意識する以前にやってることは死体処理ですからね…。そっちを気にしろよって感じだけど、その変なズレ方もちょっと笑えるんです。
で、実は松本は小寺の仕事を手伝ってることが判明するんです。ってことは、銭湯の事情も知ってるし、小寺の仕事を手伝うってことは殺し屋として現場に出ているってこと。鍋岡もビックリだし観てる僕もビックリ。絶対に殺られる役だと思った松本が殺る側だったとは…。
そう考えると、立場的には殺し屋の松本が上で死体処理の鍋岡が下のような位置付けのように思えるけど、松本の良いところは全然偉そうな態度を取らないんです。鍋岡には常に敬語だし、バカにするような態度も見せないし、すっげぇ良いやつなの、松本って。童貞だし。(童貞は関係ないか。)
鍋岡と松本の会話のやり取りも息が合って面白いんです。あまりにも自然だから2人は俳優さんではなくて、漫才コンビなのかなぁって思ったくらい。これ絶対にアドリブ入れてるよなぁって思える微笑ましいシーンもあったりしてね。不穏なサスペンスフルな展開の中でもちょっと笑える2人のシーンはとっても良かったです。
ちょっと不気味な松の湯オーナー・東
ヤクザの田中(こいつがラスボス)に多額の借金があって、そのせいで死体処理場として渋々松の湯を貸したり、殺し屋との仲介役になったりと、田中にいいように使われている松の湯オーナーの東。
ベンガルさんと大杉漣さんを足して2で割ったような雰囲気で(わかるかな…)、喜怒哀楽もあまり見せないし、感情の起伏が小さいので、ずっとつかみどころがない男で。
話し方は穏やかだし、優しそうなんだけど、突然豹変しそうな危なっかしさも感じられて。東の不気味な存在感が本作に緊張感を与えていたのは間違い無いですね。東を演じた羽田真さん、良い味出してたな。
実はね、僕はこの東って男はどこかで何かやらかすんじゃないかなぁって思っていたんです。そしたらやっぱり最後にやらかしてくれて…。
ヒロイン・百合
鍋岡の同級生で、偶然松の湯(鍋岡がバイトをはじめる前ね)で鍋岡と再会して、同窓会で仲良くなって、結局付き合うことになる百合。
この子がすっごく可愛いの。個人的にショートカットの子が大好きな僕にとっては(いらん情報だけど)どストライクなビジュアル。で、チャラついてなくて、明るくて、しっかり話も聞いてくれるという…はっきり言って鍋岡にはもったいないくらいの良い子でね(僕にももったいないけど)。
この2人の距離が徐々に縮まり、付き合うことになり、一線を越えて(コトをいたすシーンはありませんが)幸せの絶頂だったのに松の湯での仕事が原因で渋々別れることになるという。不穏な空気の漂う映画の中でのラブストーリーがまた切なくて良くてね…。
百合を演じた吉田芽吹さんは個人的に要チェック、と…。
鍋岡家の食卓
基本的にお父さんとお母さんの会話があって、息子の鍋岡は普通に食べてるだけなんだけど、この3人の空気感というか間が絶妙で笑えるんです。
「今日もご飯美味しいよ♡」
「お父さんありがとう♡」
みたいな愛情たっぷりな会話の中で黙々と食べる息子。
ノーテンキなほどの幸福感を撒き散らしている両親と、ある意味人生をドロップアウトした鍋岡とのギャップが効いていて。
映画の内容が内容なだけに、このごく普通の食卓のシーンに、はじめは笑っていいのかどうか戸惑うんだけど、ジワジワ笑えてくるんです。
いやいや、お父さんお母さん。幸せそうに笑ってますが、あなたたちの息子さんは色々とヤバいんですよって。知らぬが仏とはよく言ったもので…。
でね、この絶妙な空気感を醸し出したのがお父さんとお母さんを演じた役者さんの演技。この2人の演技が上手いのか下手なのかが微妙で。おそらく真面目に演技してると思うんだけど、良い意味で素人っぽさがあってリアル過ぎて笑えるんです。
ちなみに物語終盤も大活躍します、鍋岡家(の食卓)。
緊張と緩和のクライマックス
ヤクザの田中はオーナーの東に圧力をかけて殺し屋の松本を手に入れ、挙句にど素人の鍋岡にまで手をかけようとするんです。
さすがにその横暴さに我慢できなくなった松本と鍋岡は田中を消す決意を東に伝え、決行することに…。
銭湯でバイトを始めたらその銭湯は殺し屋の死体処理場として使われていて、その死体処理を手伝う羽目になったと思ったら最後には鍋岡自ら殺しの現場に出るというまさかの展開に。
でね、結論から言っちゃうと、鍋岡と松本が田中の家に乗り込むんだけど、なんとプロの殺し屋松本が撃たれちゃうんです(死なないけど)。そんな絶体絶命の場面に素人鍋岡が登場して見事にケリをつけるというこれまたまさかの展開に。
そして、現場からわちゃわちゃしながらも逃げる鍋岡たち一行。
で、どこに逃げるのかと思ったら…これまたこれまたまさかの鍋岡家へ。観てるこっちは「えーっ!?」って感じ。なぜ鍋岡家へ。撃たれて負傷した松本となぜか田中の愛人アンジェラも一緒に鍋岡家へ転がり込むという。
突然の訪問に鍋岡のお母さんはびっくりしつつも、普通に松本の撃たれた傷の手当てをするというなかなかシュールなシーンがまた笑いのツボを刺激するんです(かなり緊迫した場面なんだけど)。
挙句には鍋岡とアンジェラと鍋岡の両親の4人で晩御飯を食べるというなんだこの絵面は?っていう。さらに傷の手当てをしてもらって横になっていた松本にも「ご飯食べる?」ってノーテンキに話し掛ける鍋岡母。で、お言葉に甘えて一緒に晩御飯を食べる松本(って食べるんかいっ!)。結局最後には松本を入れて5人で晩御飯を食べるというまさかのほっこり展開に…鍋岡家恐るべし。
まとめ
主人公のバイト先である銭湯が実は殺し屋の死体処理場として使われていたという面白い設定かつサスペンスフルな展開。さらに、コメディーやラブストーリーや人間ドラマの要素も絡んだりと、かなり満足度の高い映画でした。
鍋岡が裏社会でわちゃわちゃする展開だと思いきや、わちゃわちゃはするんだけど、鍋岡と松本のバディ的な映画になるとは…。どういう展開になるのか全然読めなかったし、『メランコリック』の世界に最初から最後まで(特に終盤は怒涛で)ガッツリ引き込まれました。
百合が僕のタイプだったり(どうでもいいけど言わせて)、松本がまさかの童貞だったり、そんな松本に優越感を漂わせる鍋岡がウザかったり、最初から最後まで鍋岡家はシュールだったり…と、緊張感の中にも細かい笑いを散りばめつつ最後は鍋岡が小さな幸せ(生き甲斐)を手に入れるっていうハッピーエンドな物語。
鍋岡と百合はまたお付き合いするのかなぁとか、田中の死体は例のごとく松の湯で処理したのかなぁとか、実は鍋岡の両親は若かりし頃、松の湯でバイトしていて(そこで知り合って結婚して)、松の湯の秘密を知っていたっていう裏設定があったら面白いなぁとか、観終わったあとも色々と想像できる余白もあったりしてね。…続編作れるんじゃね?とか思ったりね。
超大作映画や超人気俳優主演映画や本年度No.1映画もいいけど、たまには変化球な映画もいいですよ。っていうことで、ぜひともオススメしたい映画ですね。最後の鍋岡の笑顔を観たらちょっと元気が出ますよ。
それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!
ではまた。